無題 冒頭

そうして僕は、ノートを閉じた。重い体を持ち上げ、固まった筋肉と関節を重圧から解放してやった。今日も1日が終わる。僕にとって仕事はストレス以外のなにものでもなく、若い頃に持ち合わせていた情熱は体内にくすぶって燃え尽きていた。

 

新しい何かが必要だった。

 

朝起きて、しばらく布団で踞る。それからほそぼそと仕度をし家を出る。

燃料のつきた機関車。

もう二度と燃えることのないであろう暖炉のように、心に虚しい空間だけを残して無くなってしまった何かは以前は僕を象っていたし僕自身でもあった。僕もそう思っていた。それはよくある類いの思い違いだった。世界は変化する。別れはやって来て変わらないと思っていたものは変わるのだ。平凡な、平凡よりも空虚な響きだけが残っていた。

電車に揺られながら思う。この世界はどこまでも続いていて終わりもない。曖昧な自己に溺れて何世紀も過ごして来た気がする。劇的な変化を望むが、望めば望むほどそれは遠ざかる。自分を苦しめる。そしてさらに融解し出した感情と自我に溺れる始末だ。

僕は諦めて、外の世界へ旅立つことを決めた。